講師と2名の生徒による会話形式で構成しております。
キャスト紹介不動産鑑定士。不動産広告におけるスペシャリスト。大学の不動産学部でも教えている。
知識も豊富で博識な生徒。真面目で疑問はその場で解決しないと気が済まないこだわり屋さん。
思い込みが激しくミスを犯しやすい生徒。無邪気に鋭い指摘や疑問を投げかけたりもする。
第15回 契約期間のルールも違う!?
普通借家と定期借家
問題1 次の広告表示は認められるか 定期借家。契約期間は3年以上、貸主の帰任までとなります。 |
■定期借家では契約期間を決める必要がある
- 今回は「契約期間」についてですか。あまり考えたことがないテーマですね…。
- 問題1は、貸主さんが転勤の間だけ物件を貸したいと…。今の時点では転勤の終了時期はわからないけど、少なくとも3年間は借りられるということですね。
- でも、ダメなんですよね、この表示。
- えっ、ダメなの?
- ダメです。定期借家契約を結ぶ場合には、契約期間を「確定」する必要があります。「貸主の帰任まで」といった不確定な期間の定期借家契約は認められません。
- でも、いつ帰任するか決まっていない、ということも多いんじゃないですか?
- その場合でもいったんは契約期間を決めてもらわないと定期借家にはなりません。表示規約でも定期借家については「その旨およびその期間」を表示すると定めています。
- SUUMO のお助け辞典でも…。
- ほんとだ「契約期間、または、契約期限を必ず表記する」と書いてある。
- 契約期限を表示してもよいので「2019年3月31日まで」といった表示でも構いません。
- 借主は2019年3月31日までは、確実に借りることができるからですね。
- その通りです。ところが「貸主の帰任まで」では、いつまで借りられるのかはっきりしません。借主が不安定な立場に置かれるので、このような定期借家契約は認められません。
- この場合はどう表示すればいいんですか?
- 「3年間は間違いなく貸せる」、ということでしょうから「定期借家3年」として表示することになります。もちろん、契約期間中に帰任しても契約を解除することはできません。
■契約の更新と再契約は違う
- 定期借家契約で3年契約を結んだとしますよね。「3年経ってもまだ帰任しないからもう少し貸してもいいと貸主は思っている。借主も借り続けたい」、といった場合にはどうなるんですか?
- 3年間の定期借家契約をいったん終了させて、その後「再契約」を結ぶということになるでしょうね。ただし、必ず「再契約」できるとはかぎりませんし、賃料など契約条件も変更になるかもしれません。
- 「再契約」というのは普通借家の「契約の更新」とは違う、ということですよね。
- そうです。普通借家の場合、貸主側は正当事由がなければ「契約の更新」を拒めないので、借主が希望すれば、同一条件で賃貸借契約が更新、つまり延長されます。これに対し「再契約」の場合には、新たに契約を結ぶのですから条件が変わることもあり得ます。
- 『再契約型』といって同一条件で再契約できることを前提とした定期借家もある、と聞いたことがあるんですが。
- 「家賃滞納等の契約違反がない限り、同一条件で再契約を行なう」というものですね。そういう方法を採用している管理会社さんもあるようです。その場合でも広告には【定期借家3年】で表示頂き、「再契約」については別途表示するなりご説明していただくことになります。
- 広告には確実に借りられる期間を表示するということですね。
- その通りです。普通借家の「契約の更新」という話がでたところで、次の表示についてはどう思います?
問題2 次の広告表示は認められるか 賃料5万円。契約期間3カ月。普通借家契約ですから契約の更新ができます。更新後の賃料は10万円となります。 |
■契約期間1年未満の普通借家契約は認められない
- 普通借家ですから「契約の更新」はOKですよね。
- そうですね。
- であれば、別に問題ないように思えますけど。
- そう思いますよね。でも、実は“普通借家で契約期間3カ月”というのはあり得ないのです。
- えっ、あり得ない!?
- 契約期間が1年未満の普通借家契約というのはありません。「期間の定めのない契約」になります。借地借家法第29条第1項に次の規定があるからです。
期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 - 「期間の定めのない建物賃貸借」ってなんでしょうか?
- 通常の借家契約であれば「2年間」とか「3年間」といった契約期間を決めることが一般的だと思いますが、具体的な期間を決めていない契約のことです。
- それって、契約がずーーっと続くっていうこと?? 一生その部屋に住まなければいけないんですか!?
- そんな馬鹿なことはありません。貸主も借主もいつでも解約の申入れができます。もっとも、貸主側からの解約申入れには、正当事由が必要となります。
■キャンペーン賃料のルール逃れはできない
- あのー、ちょっといいですか?
- なんでしょう。
- そもそも法律で認められていないのなら、問題2のような表示をする人はいないと思うんですけど。
- ところがそうでもないんです。問題2の表示は最初の3カ月間の賃料が5万円、4カ月目から10万円になるということですよね?
- そうなりますけど…。それが何か?
- あっ!キャンペーン賃料か。
- そうなんです。当初の3カ月間だけ賃料が安いという場合には、賃料欄には高い方の賃料を表示しなければなりません。
- そうでした。この連載でも何度かご紹介しています。
- ところが、賃料欄に安い賃料を表示したいという思いからか、問題2のような表示をする業者さんもまれにいるのです。
- 契約期間の3カ月間は賃料5万円なんだから、賃料欄に5万円と書いてもいいだろうということですね。
- ところが契約期間が3カ月の「普通借家契約」は認められない、と。
- キャンペーン賃料の表示ルールの抜け道にはならないんですね。
- その通りです。キャンペーン賃料の話がでたところで次の表示はどう思いますか?
問題3 次の広告表示は認められるか 賃料5万円(定期借家3カ月)。通常賃料10万円が半額となるキャンペーン賃料です。 |
■定期借家ならば1年未満の契約も認められる
- 定期借家なら1年未満の契約も認められるんですか?
- はい。普通借家契約であれば1年未満の契約は「期間の定めのない契約」となりますが、定期借家契約の場合は1年未満の契約も認められます。契約期間3カ月というのもOKです。
- でも契約期間が3カ月の物件なんて本当にあるんでしょうか。
- そうそう。本当は賃料10万円で3カ月間だけ5万円というキャンペーン賃料なのに、賃料欄に10万円と書きたくないから定期借家としているだけのような。
- もちろん、定期借家3カ月というのが嘘ならば不当表示ということになりますが、事実ならば問題はありません。ここでは、「賃料5万円で3カ月だけで退去されてもいい」とオーナーが了承しているとして考えてください。
■キャンペーン賃料とは言えない
- 問題2と違って契約期間は問題ないんですよね。
- とすると問題3の表示は認められて、賃料欄に5万円と表示できるわけですか。なんだかずるい気がしますけど。
- 事実なので別に、ずるくはないですよ。ただしこの場合は、キャンペーン賃料といった表示はできないので問題3の表示は認められない、ということになります。
- ???
- どういうことでしょうか?
- 契約期間が2年間なら2年の間ずっと賃料が10万円のところを、特別に3カ月間だけ5万円に減額する、というのであれば、通常の賃料よりも安くなっているわけです。その場合にはキャンペーン賃料、特別賃料という表示も可能です。しかし問題3は違います。契約期間は3カ月で賃料が5万円だ、というだけの話です。単に契約条件を示しただけなのでキャンペーン賃料とか特別賃料といった、通常支払う賃料よりも安くなっているかのような表示はできません。
- なるほど。契約期間中の賃料が減額されているわけではないからですね。
■定期借家と普通借家の違い
- 先生、定期借家と普通借家の違いについて整理してもらえませんか?
- うーん、定期借家と普通借家の違いですか。契約方法や借主からの中途解約など、今回お話した内容以外にもいろいろあるんですが…。まぁ、今回の話に関係する部分だけでもまとめてみましょう。
■宅建試験の知識が役に立つ
- 今回は難しい内容でしたね。
- たまには法律の勉強も必要ということなんでしょうけど、なかなか勉強する機会がなくて…。
- 不動産に関する法律を勉強したいのなら、宅建試験の勉強をするのが一番いいと思いますよ。借地借家法だけでなく、区分所有法や宅建業法の勉強にもなりますから。
- でも、宅建って難しいんですよね。
- 合格率も15%程度って聞きました。
- 大丈夫ですよ。わかりやすいテキストもありますから。これなんかお勧めですよ。
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