講師と2名の生徒による会話形式で構成しております。
<キャスト紹介>
k: 不動産鑑定士。不動産広告におけるスペシャリストで生徒の質問にも優しく答える
b: 博識な生徒。真面目で疑問はその場で解決しないと気が済まないタイプ
c: 思い込みが激しいが故にミスを犯しやすい生徒。無邪気に素朴な疑問を投げかける
第11回 とっても大事なお金の話
~キャッチコメントには要注意~
- b:今回は、お金をテーマにお送りします。
- c:「不動産投資でどう儲けるか」って話ですか!待っていたんですよ、そういう企画。
- k:残念ながらそうではありません。SUUMOのキャッチコメントなどに表示する賃料や一時金の話です。
- c:なるほど。お金関係はきちんと表示しないとカスタマークレームになったり、他社さんからご指摘を受けることになってしまいますからね。
- b:実際に寄せられた質問から表示の可否について考えていきたいと思います。まずはこちらです。
■賃料、一時金は確定する必要がある
Q1:キャッチコメントに「入居費用ご相談ください」と入れてもいいでしょうか。 |
- c:礼金や敷金など一時金を値引きしてくれるってことですね。ユーザーのためになる情報だからいいようにも思えますけど…。
- k:残念ながらダメなんです。
- b:えっ? 契約の際に値引きすることは問題ないんですよね。
- k:もちろんです。しかし、広告では確定した賃料や一時金を表示する必要があります。
- b:確定した賃料・・・。
- k:たとえば「賃料5万円。礼金1月。賃料や礼金についてはご相談ください」という広告があったとします。これは賃料や礼金を値引きしてくれる、という意味ですよね?
- c:そうでしょうね。
- k:ではいくら値引きしてくれるのでしょう?
- c:うーん、それは問い合わせしてみないとわからない…。
- k:「問い合わせした人にだけ正確な賃料を教える」というのはダメなんです。
- b:賃料や礼金は、問い合わせをしなくてもわかるように、ということですね。
- c:店頭で値引きしてもらえても、本当はもっと引いてもらえたんじゃないのかな、って思ってしまいそうですしね。
- k:そういう不明瞭なことをなくすためにも、必要な表示事項として賃料や一時金を明示するように決められているわけです。賃料や一時金については「相談」や「交渉可」といった文言を使用することはできません。
■根拠がなければ表示できない用語がある
Q2:1DKで賃料が1万円という物件があります。このように本当に安い物件でも「格安」と表示することはできないのでしょうか? |
- b:「格安」という表現はできない。これは有名な規定ですね。
- c:でも1万円なら本当に安いと思うんですけど。
- k:確かに安いでしょうね。でも「格安」という言葉は使えません。
- b:実際に安い物件でもダメなんですか?
- k:周辺地域の類似物件と比べて極端に安いのであれば、なんらかの理由があるはずです。築年が古いのか、環境的要因があるのか、事故があった物件なのか。理由があって安いのなら、それは「格安」といった著しく安いという印象を与える表現はできない、というのが表示規約の考え方です。
- c:「他の物件と条件が全く同じなのにものすごく安い」場合にのみ使える、ということですか?
- k:そうです。でも、「他の物件と条件が全く同じ」ということを証明することはなかなか難しいでしょう。同じアパートでも、部屋によって陽当りも違えば、使用状況による劣化の程度にも違いがあるのが普通でしょうから。
- b:だから表示規約でもこれらの用語を使うことを禁止しているのですね。
- k:正確には禁止ではなく、「その表示内容の根拠となる事実を併せて表示する場合に限り使用することができる」です。しかし、「格安」の「根拠となる事実」を示すことは、困難だと思います。
- c:実際には使えないことが多い、ということか…。
■二重価格(賃料)表示は制限がある
Q3:右図のようなバナー広告を掲載したいのですが、何か問題ありますか? |
- b:駐車場が2年間無料になるんですね。
- c:10月末までに契約した方が対象だ、と。条件も明示しているから特に問題はないような…。あれ?なんか前にもこういうのがありましたね。
- k:よく覚えていました(笑)。第4回「値引き表示は許されるのか?」で解説しましたね。
- b:①過去の賃料を比較対照した二重価格(賃料)表示は認められない、②全員が該当する場合は割引表示が認められない、というのがポイントでした。
- k:その通りです。
- c:この事例も二重価格(賃料)になるのですか?
- k:単に「駐車場無料」なら問題はないのですが、「21,600円の駐車料金が2年間無料」という表現は、「21,600円×12月×2年間」と「無料」とを比較対照した二重価格(賃料)になります。さらに、「10月末までに契約した人全員」が対象となりますから、この表示は認められません。
- b:「21,600円×12月×2年間で、518,400円」。この表示は【518,400円→0円】と同じことだ、ということですね。
- c:えーーと、賃貸では値引き表示が認められないんでしたっけ?
- k:そうではありません。「一定の条件に該当する方」についての値引きであれば表示は可能です。しかし「10月末までに契約した方」という「期間のみを条件とした場合には一定の条件にはならない」というのが公取協の見解です。
■表現方法によって規約違反になることもある
- b:ちょっといいですか。
- k:なんでしょう?
- b:この場合でいえば、「21,600円×12月×2年間」が無料になるという表示はできない、ということですよね。
- k:そうなりますね。
- b:でも駐車場が無料なのは2年間だけなんですよね。
- c:あっ、3年目からは賃料が発生するわけか。
- b:そう。それを表示しないのはまずいんじゃないかと思って…。
- k:その通りです。「3年目からは賃料発生する」ということを表示しないとトラブルになる可能性があります。
- c:??? でも、2年間無料とは表示できないんですよね?
- b:割引表示にならないように本来の金額を入れなければいいのでは?
- k:そうです。次のような表示ならば問題ありません。
- c:うーーん、結局同じことのような(笑)。
- k:それはそうです。契約条件は同じなんですから。同じ内容でも表現の方法によっては規約違反になってしまうので注意が必要なんです。
■更新後に値上がりするのであれば表示する
- b:もう一ついいですか?通常は2年契約の物件が多いですよね。となると3年目というのは契約更新した場合の話になります。契約更新後の条件についてまで広告で表示しなくてはいけないのでしょうか?
- k:通常は、更新後のことについて表示する必要はありません。しかし、今回のケースのように値上がりすることがわかっているのであれば、その旨表示した方がトラブルを避けられるでしょうね。SUUMOに入稿する際は、【図1】のように「その他備考欄」に記載していただければと思います。
- 【図1:SUUMO入稿画面例】
- c:更新後に値上がりすることが分かっているケースって他にもあるんでしょうか?
- k:今回のように最初の契約期間だけ安くする、ということもあれば、傾斜家賃のように、一定年数ごとに賃料が上昇するということもあると思います。
- b:表示しないと規約違反になるのでしょうか?
- k:表示規約に明示されているわけではないので、規約違反とまでは言えないかもしれません。しかし、値上がりすることがわかっているのであれば表示した方がトラブルを避けられるでしょう。また公取協もそのように指導しているようです。
- b:条文に明示がなくても、ユーザーにわかりやすい表示を心がけることが大切、ということですね。
- k:その通りです。賃料や一時金の表示はトラブルになりやすいところです。ユーザーに誤解のない広告表示を心がけることが業務効率のアップにもつながるはずです。
- c:まさに「とっても大事なお金の話」ですね! 勉強になりました。
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