第24回 「退去されやすい部屋」から見た
長期入居のカギ
先日iPhone7が発売されましたね。携帯電話の契約の多くが「2年契約」となっています。2年以内の解約には、高額な解約料がかかり、基本的には自動更新。そのかわりに機種購入や機種変更の際、2年間にわたる料金割引を適用するというものです。この契約、巷では「2年縛り」とも呼ばれています。割引適用や、解約料のことを考えると、2年契約が終わるタイミングまで我慢しよう、というニュアンスの言葉です。以前は、携帯会社を変えると電話番号も変わってしまうため、一度通信会社を選んだら、顧客は縛られ続けるという背景がありました。
しかし、顧客囲い込みの構造も「ナンバーポータビリティ」を機に、ひとつ縛りが解かれました。また、最近ではSIMフリーと呼ばれる、どの通信会社のSIMカードでも使える携帯電話が増え、機種代の2年割引という縛り(エサ)も崩れてきています。そうなると、通信各社の戦略は「新規獲得重視」から、「継続利用重視」へと向かわざるを得ません。最近、各社が長期契約者へのサービスを拡充し始めているのには、そのような背景があるのでしょう。
前段が長くなりましたが、賃貸経営においても年明けになると、「新規契約」の新入学、新社会人の入居希望者が増えるシーズンであると同時に、2年前に契約した方の「更新」の時期に入ります。
これまでは転居があってもすぐに入居が決まればよかったのですが、今後は人口減少、物件数増で、空室リスクが高まっていくことが予想されています。そうなると、通信会社のように「出口戦略」つまり、いかに長期で入居してもらうかが重要になります。ようやく、前段の話とつながってきましたね。
ということで今回は、「退去されやすい部屋」の傾向と対策を見ることで、いかに長期入居をしてもらうか、について考えていきたいと思います。
■改善してほしいのは、「音」と「断熱」
まずは賃貸でどんなところに不満を持っているか。賃貸検討者を対象にした調査※で、「ここを改善して欲しい」というニーズを聞いたところ、1位は「遮音性能」、2位は「断熱性能」となっていました。これらは「内装のリフレッシュ」や「最新設備」よりも高い結果に(図1)。
もし、こういった箇所に不満を持って住んでいるとしたら、更新時期になって「他にうつろう」と考えるのも不思議ではありません。
■音の問題にも2種類ある
1位に挙げられる「音の問題」をもう少し詳しく見てみましょう。次のグラフ(図2)は、音の問題のうち、どんな音が退去したいほどのストレスになるかを調べたものです。
日常暮らしていて聞こえてくる音は、空気を通じて聞こえる「空気音」と、コンクリートや金属などを通じて聞こえる「固体音」に分けられます。わかりやすく言えば、窓から入ってくる音が空気音、天井や壁から響いてくるもの音が固体音だと思ってください。
「音を感じる」、つまり音がするかどうかでいうと、外から聞こえる人の声が1位となっていますが、注目していただきたいのは、「ストレスを感じる」度合い。ストレス度合いで見ると、上下階の足音や、ものを落としたときの音のほうが人の声を上回っています。
ただ、上下階の音は床のスラブ厚や遮音性のあるフローリングなど、構造に依る対策が必要な箇所。つまり新築物件を建てる際にはここを意識しておかないといけない。逆にいえば、今から新築を建てるならば多少コストがかかっても、遮音対策を万全にしておけば中長期的な競争優位が築けるのです。
では、「既存の賃貸」では何もできないのか?というと、そんなことはありません。次のグラフ(図3)は、家賃が増額になっても導入してほしい音の対策を聞いたものです。
これによれば、家賃が上がっても導入して欲しいものの1位が「遮音シート」でした。もし上下階の音のクレームが多いなぁということであれば、内装のリフレッシュ時にこの遮音対策を行うと良いでしょう。
■「温度差」と「カビ」がストレス
同様に、今度は「断熱」に関するストレスを見てみましょう(図4)。音と比べても断熱に関する問題は感じている人も多く、また退去につながるストレスにもつながりやすい傾向にあることがわかると思います。
特に体感も退去につながるストレスも大きいのが、「季節ごとの温度差」と「室内にカビが発生」すること。室内にカビというのは、一見断熱とは関係がなさそうですが、カビの原因は室内外の温度差による「結露」によるところが大きく関係しているのです。
また、温度差とカビについては、ただ不快なだけでなく、健康被害に及ぶ可能性もはらんでいます。「ヒートショック」という言葉を聞いたことがあるかと思います。これはお風呂に入る際などに急な温度差があると、血圧が急激な変動をおこし、最悪の場合、命の危険につながるもの。次のグラフ(図5)は、温度差の健康被害や、カビの発生原因について知っているかを聞いたものですが、5~6割の方が知っていました。断熱不足と健康被害の関連性については「既に知られている」ととらえたほうがよさそうです。
では、「断熱・気密」についてはどんな対策をすればよいのでしょうか。「音」と同様に家賃が上がっても導入してほしい内容について聞いてみました(図6)。
結果をみてみると、断熱リフォームが1位となっていますが、それに続く項目。二重ガラス、床暖房が上がっています。さきほどの音の問題も思い出していただくと、「二重窓」と「床対策(遮音と床暖房)」を行うことが、退去リスクにつながる「音」と「断熱」の問題を一挙に解決する近道となりそうですね。
ただ、いずれもコストがかかるものですので新築時に施すか、大型リフォーム時に検討することになると思います。でも、「何か手軽にできる断熱対策はないのか?」そう思われる方も多いと思います。オススメは、窓に取り付ける断熱シートです。
窓のサイズに合わせてカットしたものを入居時や、次の3月更新を迎える人にクリスマスプレゼントとして12月に渡したりするのもオススメです。
■対策をすれば自信をもって案内できる
ここまで、退去リスクという観点でお伝えしてきましたが、もしこれらの対策がバッチリということでしたら、それはもちろん「アピールポイント」になります。ぜひ募集要項には、音や断熱に対する対策内容をきちんと盛り込んでください。
冒頭にもお伝えしましたが、これらの対策は大きな改修を伴うため、通常の原状回復時などではなかなか対策がしにくいものです。ただ、「クレームが多い」あるいは、「対策が不十分だ」と思いあたる物件については、「いつ対策をするか」を考慮しておくことが大切です。
長期入居をしてもらうということは、簡単に言えば「退去したくないくらい満足度の高い部屋かどうか」、ということです。その観点でいうと不満解消は本当はスタートラインなのかもしれません。
さらなる満足度の高い顧客重視の賃貸経営、ぜひ考えて行きたいですね。
※データ出典
・賃貸検討者調査2016 (2016年5~6月・アンケート回収数:810)
・賃貸検討者調査2014 (2014年4月・アンケート回収数:618)
(株)リクルート住まいカンパニー調べ
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