第15回 団塊世代は健康なうちに引っ越すのか?
昨今、「アクティブシニア」「健康寿命」という言葉がメディアに溢れています。三菱総合研究所はプラチナ社会研究会を立ち上げ、多数の企業が参加しています。国も「まち・ひと・しごと創生」の中で、日本版CCRC(健康なうちに入居し継続的なケアを受けられるシニアコミュニティ)有識者会議を立ち上げ、健康なうちに魅力的なシニア向けの住宅に引っ越す。それがUターン、Jターンになるならば、地方創生と健康長寿が両立できるではないか!ということで検討を始めており、私もその委員を務めさせていただいています。
でも果たしてシニアは健康なうちに動くのかどうか?正直簡単ではないと思いますが、どんな層にどんな要素があれば早めの引っ越しがなされるのか?今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。
まずは弊社が団塊世代に実施した調査からみてみましょう。「将来的な住まいはどうお考えですか?」と聞くと、8割の方が今の家をそのままかリフォームして住み続けると回答。収入に余裕がある方ほど住み替えるか手を入れる傾向がありますが、いずれにせよ多くないですね(図1)。
ところが「自分自身に介護が必要になった場合は?」と聞くと、引っ越しを検討する人は3割から4割程度になります。元気なうちは今の家で、介護が必要になったら専用住宅への引っ越しを考えるというのが1つのメジャーシナリオということになります。
でも実際は要介護になったとしても、訪問介護やデイサービスを活用すればやっていけるので、介護をきっかけに住み替える必然性はないのです。ですから本来は「介護が必要になったら引っ越す」という発想は少し間違っており、シニア期を迎えたら「いかに豊かに健康を維持し、要介護にならないように暮らしていくか」という発想で考えるべきなのです。でもみなさんは、どんな選択肢があるのかをご存じない。逆にいえば、その選択肢を世の中に提示すれば一定の人たちは住み替えを検討する可能性があるということです。
次に、「住み替えるとしたらどんな住まいがよいのか」を聞いてみました(図2)。
【図2)
あなたは将来的に、以下のような住まいに住みたいと思いますか。
「現在のお考えについて」それぞれ、あてはまるものをひとつお選びください。(TOP2)】
全体 | ポスト団塊の 世代 (60歳以上~ 62歳以下) |
団塊の 世代 (63歳以上~ 67歳以下) |
プレ団塊の 世代 (68歳以上~ 72歳以下) |
戦前 生まれ (73歳以上) |
|
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全体 | 4,120 | 925 | 1,315 | 1,064 | 816 |
子世帯と近居 | 50.2 | 49.6 | 51.4 | 49.3 | 49.9 |
高原/森に近い街での暮らし | 38.7 | 38.6 | 39.1 | 37.7 | 39.6 |
都市部のマンション | 31.6 | 36.1 | 29.3 | 30.3 | 32.1 |
健康な人向けの シニアコミュニティ |
27.5 | 25.4 | 27.3 | 27.7 | 30.1 |
ニ拠点居住 (今の家と、もう1カ所どこかほかの場所に住むなど) |
22.2 | 26.2 | 24.8 | 18.5 | 18.1 |
地域は変えずに駅前など 利便性の高いマンション |
38.6 | 41.5 | 37.6 | 37.9 | 37.9 |
海に近い街での暮らし | 29.7 | 31.7 | 31.0 | 27.3 | 28.3 |
子世帯と二世帯 | 20.8 | 19.2 | 20.2 | 19.9 | 24.9 |
海・高原・森以外での 田舎暮らし |
18.5 | 20.5 | 19.3 | 16.8 | 17.2 |
生まれ故郷に帰る | 16.6 | 18.5 | 17.9 | 14.5 | 15.0 |
海外移住 | 9.5 | 14.5 | 9.1 | 7.3 | 7.2 |
無回答 | 10.5 | 9.0 | 10.8 | 11.2 | 10.9 |
1番は子世帯との近居、2番目が高原や森に近い街、3番目が駅前のマンション、4番目が都市部のマンションとなりました。また分譲マンションを購入したシニア層の特徴をみると、大規模な都市部のマンションもしくは郊外部の駅前マンションが多く、理由を聞くとコンシェルジュサービス、ゲストルームなどの付帯サービスが便利なことと、残す資産としても安心だからだと。でもよくよく聞いてみると、駅前で共用施設が揃ったマンションはお友達や息子・娘、孫たちが遊びに来てくれるという理由が強いようなのです。また、共用部にパーティルームなどがあると、入居者同士の交流がしやすいこともあります。つまりここから読み取れることは「人と関わり合い」を持っていたいというニーズです。各種医療の調査でも、体が衰弱する一番の要因は「孤独」だともいいます。この「関わりあい=縁」をどう担保する仕組みを導入するか。石破地方創生大臣が先進的なシニア向け住宅である「ゆいま~る那須」を、安倍首相が「シェア金沢」を視察されたことからもその注目度合いを知ることができます。
一方で、麻雀ルームやダイニングを充実させ、イベントやクラブ活動などを盛り込んだアクティブシニアマンション(グランコスモ武蔵浦和 http://www.cigr.co.jp/pj/A02223/)の担当者にきくと、コミュニティは入居前に目に見えないこともあり、セールストークとしての響きが弱いとか…。では代わりにどんなことが求められているのかというと「先々の安心感」だそうです。つまり自分がいざ要介護や病気になった時にどんなサービスを提供してくれるのか?実際には要介護になった際にはケアマネージャーが認定を行い、適切な自宅介護サービスや高齢者住宅をアドバイスしてくれるのですが、それとは別に安心できる入居者特典がほしいというのです。つまり医療や介護との連携サービスがある程度用意されていることが重要なのです。
また、それ以外にも感じることがあります。
この2枚の写真、どちらのタイプが人気かお分かりになりますでしょうか?
答えは右です。違いはフローリング、建具の色です。高級感ある左より、白に近い色で明るく見えるほうが4倍ほどもニーズがあるそうです。
またサービス付高齢者住宅でも18~25m2という一番狭いタイプよりも30m2~50m2程度の広さがあるほうが人気と聞きます。通常の賃貸と同じですが、空室を考えない投資利回りですと狭いワンルームに軍配が上がりますが、空室リスクを考えるともう一回り大きい部屋のほうが埋まっています。ニーズの割に供給が少なく手堅い。それとシニア向けの住宅も同じことが言えるのではないでしょうか。
最後に、私が米国にてみてきたCCRC(Continuing Care Retirement Community)やシニア専用の住宅をいくつかご紹介します。
こちら(写真右)はロスアンゼルス郊外にある55才以上限定のシニアコミュニティ。特に介護や医療サービスはついてない低層コンドミニアムを中心とした住宅街です。総ユニット数は600。月3万円程度のランニングコストでゴルフやプールやCardゲームが楽しめる共有施設を利用できます。一番感銘を受けたのは住民の主体性。訪れた時も住民のボランティアスタッフが受付をされていて「なんでも聞いてね」と優しかったです。
こちら(写真左)はロスとサンディエゴの中間くらいの温暖な地区にあるCCRC。ここでの驚きは既に入居者の中で3カップルが結婚しているということ。
いつまでも「人に愛されたい」、「よく見られたい」という気持ちはあるもの。
もしかすると恋が一番の健康長寿の秘訣かもと思いました。
日本でもこのようなフラッグシップとなりうるシニア向けの住居が生まれれば、価値観が変わるかもしれませんね。
私は内閣の日本版CCRC構想有識者会議の委員を務めておりますのでご意見・ご要望をお寄せいただければと思っております。ぜひ、弊社担当までご連絡ください。
※データ出典:団塊世代の住み替え意向に関する調査(2013年リクルート住まいカンパニー調べ)
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