第9回 入居者の「5月病」!?
~住人との関係性構築 で退去されない賃貸住宅へ~
4月22日にアットホーム社より「首都圏の居住用賃貸物件(3月)」が発表され「成約数、前年同月比2か月連続の減少」という厳しい結果が明らかになりました。考察には「前年増加の反動に加え、消費税増税を控えてユーザーが出費に慎重になった模様」とありましたが、少なからず消費税増税前に購入に踏み切った層がいたことも影響していると考えられます。また、懇意にさせて頂いている管理会社の方からは、「増税前の新築の客付けが大変だった」という声も聞かれました。増税前の建築ラッシュで例年より部屋の件数が多かった事もありますが、一番困ったのは工事の遅れ。入居日に壁紙が張り終わらないという報道もありましたが事実だったようですね。2月に完成した新築は完成した部屋を案内できるので順調に入居者を見つけられましたが、それができない3月完成物件の客付は厳しかったようです。結果として新築にも関わらず敷金・礼金を削ったり、中にはゼロゼロ+フリーレント、あるいはADというまるで築20年級のような施策まで打ってようやく満室となった物件もあったようです。
この影響を受けたのは築年数の古いマンション・アパート。新築にここまでの好条件が出ると当然退出事例も多くなり、痛手を負いました。新築でもまだ一部入居者が決まっていない物件もあると聞きます。また不満があって退出する方も出てきます。社会人には「5月病」という言葉がありますが、賃貸においてもちょっとした不満で退出してしまう5月病はあるようです。敷金礼金の減少、フリーレントなどにより転居の壁はかなり低くなっています。この5月病を予防し、少しでも長く住んでもらえるための住まいはどう作るのか。その入居促進の打ち手としては"リフォーム"や"リノベーション"が語られますが、いまリノベーション業界では「表層的なリノベーションの限界」が語られています。表層のデザインリフォームで入居した人は飽きて、また新しいデザインの部屋に移っていってしまう「渡り鳥」だと・・・。今後重要になってくるのは「人の関係性もリノベーションする(再構築する)」こと。
そこで今回は「住人との関係性構築」について考えてみたいと思います。
入居者との関係性を創るのに最もキーになるのはオーナーさんご自身。よってこの分野の成功事例の多くは「自主管理オーナー物件」となります。こうなると「管理会社には関係ない」、「ましてやサブリース物件なんて・・・」とお思いかもしれませんが、さもあらず。ぜひこの機会に一緒に考えてみて頂きたいと思います。
実例をご紹介します。まずはじめはメゾン青樹が経営する『ロイヤルアネックス』です。こちらは新聞やテレビで多数の露出があるのでご存知の方も多いと思いますが"入居者100人待ち"といわれるマンションです。報道では「オーダーメイド賃貸」という入居者と建築デザイナーとオーナーが話し合って数百万相当のリノベーションを行うことで有名ですが、私が注目しているのは入居者同士を繋げる仕掛けを多数用意している点です。屋上でみんなで花火を見たり、餅つきをしたり、入居者が格安で借りられるパーティルームがあったり・・・。最近ではコワーキングスペースまで用意。入居者同士、さらには入居者と外部の方がこの賃貸マンションの「場」で出会い、楽しめる仕掛けがあります。オーナーの青木氏は「暮らしをデザインする住民が物件の魅力を上げる」と表現されていますが、このマンションでは住人が自分たちの暮らしを楽しむために「自発的に」イベントを企画するレベルに達しています。こうして企画されたイベントには多数の人が集まり、外部の人達の羨望の的となっていきます。そしてそれが既存住民の満足度も更に上げていくという好循環を生み出しているのです。
写真:ルーフガーデンで行われた住人発案の餅つき大会(左)。みんなが使える共用リビング『PLUS+』(右)
もうひとつは新百合ヶ丘にある『ログコテージ』という賃貸住宅。ログハウスであるというのが最大の特徴ですが、入居者の居住年数が長いことにも注目です。その理由はオーナーと入居者、および入居者同士の良好な関係性にあります。まずは「女性の誕生日に花を贈る」というオーナーからの細やかなサービス。実は私の家も建築した工務店から毎年、妻の誕生日に立派な花が届きます。おかげで私はラクができます。誕生日を忘れても大丈夫(笑)。また4月、5月には新しい入居者のために「春のタケノコ掘り」を企画されています。音頭はオーナーがとっているのですが、実際は入居歴10年という古株の住人が初参加の人をサポートしながら、リーダーシップを発揮しているのが印象的でした。
写真:毎年恒例のタケノコ掘り。連休中にも関わらず9割の出席率。和気あいあいと和やかムード。
オーナー自身がずっとコミュニティの中心で居続けるのは大変ですから、入居者の中で中心的な役割を果たしてくださる方を創ることが大切です。最初のきっかけとなるイベントはオーナーと管理会社で作りながらも、キーになってくれそうな入居者を探しだすこと。次からはその方をうまく盛り立てて、その方が楽しく運営できるようにサポートする体制を作れる事が理想です。
そうは言っても、「そのきっかけをどう作ったらいいのか?」は悩ましい所。そこでSUUMOではアンケート※を実施しました。
「住人同士の交流のために、どのようなイベントや催しがあったら良いと思いますか。」という問いに対して、1位は「防災訓練、避難訓練」2位は「趣味のサークル活動」3位は「習いごと、教室、ワークショップ」4位は「お花見」、5位は「住人同士での地域のお祭り、縁日への参加」と続きました。ここで大事なのは「全員参加を目指さないこと」。支持率も高くて30%の世界です。三分の一でも参加してくれたなら十分。このマンション・アパートのコミュニティの中核になってくれそうな人が何人かだけでも来てくれれば御の字です。
また施設や設備・サービスとして、もしくはオーナーが提供してくれるものとして、「住人同士の交流のためにどのようなものがあったら良いと思いますか。」ということも聞いてみました。1位は「屋上、ルーフバルコニー」2位はなんと「図書室」さらに3位は「オーナーによる不在時の宅配便などの荷物一時預かり」。同率5位で「エクササイズルーム」「バーベキュースペース、テラス」。他にも「オーナーによる自転車や電動自転車の貸し出し」や「オーナーによるしばらく使わないもの一時預かり(トランクサービス)」も高い支持率が得られています。屋上やテラスなどは場所や資金が必要ですが、オーナーによるサービスは気軽にはじめられますよね。
このようなコミュニティのきっかけづくり、サポートの仕組みは、退去されない空室対策の1つとして今後更に磨かれていくのではないかと考えられます。
遠いもの、難しいものと思わずに、できることから少しずつでも取り組むご提案をしてみてはいかがでしょうか?
※データ出典:賃貸入居者動向調査(2014年4月) リクルート住まいカンパニー調べ
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