池本編集長の賃貸ゼミな~る

第12回  “賃貸住宅フェア2014”を振り返る

クリスマスイルミネーションの点灯もはじまり、いよいよ年の瀬が迫ってまいりました。年が明ければ2015年の住み替えオンシーズンが始まります。

さて今回はオンシーズンを迎えるにあたり、今年行われた全国賃貸住宅新聞主催の「賃貸住宅フェア2014」を振り返り、私なりに掴んだ「傾向」をお伝えしたいと思います。

“賃貸住宅フェア2014”で実施されたセミナーの様子(東京会場)。

写真:“賃貸住宅フェア2014”で実施されたセミナーの様子(東京会場)。

まずは出展ブースを見ての実感から。昨年に引き続き「空室対策」としての「リノベーション」の提案が多かった気がします。特に地方では高まる空室リスクに対し、デザインを新築風にする表層リノベーションの提案が目立ちました。その中でも「廉価」「定額」を打ち出したブースが多く、家賃下げ競争ならぬ廉価版競争が繰り広げられたように感じました。一方セミナーでは、カリスマオーナーの多くから「一律のデザインリノベーションへ疑問符」が!このブースとセミナーの対比構造が興味深かったです。

具体的にお話しましょう。あるオーナーはターゲット設定の重要性を訴求されていました。より具体化してシャープにすること、そして今後増えると予測されるターゲットに設定することが肝要だと。例として『年収300万以下45歳以上男性』をターゲットにおきます。彼らが何を望むかを調べると「初期費用の安さ」「自炊できる環境」「健康維持」が見えてきました。「初期費用の安さ」というと敷金礼金を下げる、フリ-レントが思い浮かびますが、それだと初期費用デフレを招きますから「家具家電」という打ち手にします。しかしここで注意が。一番安いセットを量販店で大量に買ってセットするのは微妙だと。学生や新社会人はそれでもいいですが、45歳以上の男性は既に一定の家具家電は持っているでしょう。ですから「選べる」というニーズにも答えねばなりません。これに「健康」というキーワードを結びつけると「調湿効果や除菌効果の高い空気清浄機やエアコン」を選べるサービスが喜ばれるということになります。「低家賃帯=一律で質の低い設備」では差別化できません。差別化とは単に違いをつくるのではなく入居満足度の高い部屋を作り長く住んでもらうこと。それが重要なのです。

また管理会社のセミナーでも「オーナーではなく入居者に向くことが大切な時代」という話が目立ちました。その地域に暮らす人はどんな人なのか?何を求めているのか?そのニーズをきちんと想像し、調査などで確認した上で「オーナーの思い込み」がズレていればそれをデータや生の声を元に伝えていくことが大切であると。
 「今後賃貸市場には相続等で余剰した分譲マンション、戸建も賃貸市場に流入してくる中でデザイン性や設備仕様の更新は真似されやすく、持続的競争優位にはなりません。」こう論じたのはブルースタジオの大島専務です。その持続的競争優位は「物件を物語化」するという発想が重要だと。どう物語るかというと
 「あなたでなければ、ここでなければ、いまでなければ」。
 「あなたでなければ」はオーナーの人的価値です。オーナーの想いや趣味、知識を活かして独自性を出す。「ここでなければ」はその街の魅力を見出しその特性を賃貸にも活かす発想。「いまでなければ」は築年を経過してきた歴史や営みに目を向けて「古い=ボロい」ではなく経過した時間の価値に変えていく。つまりなんでもかんでも新築風にする発想からの脱却です。

もう一つのキーワードは「コミュニティ」でした。入居者との交流、良好な関係性を築くには?的な内容が多かったですね。その中でも人が集まっていたのが青木オーナーのセミナー。完成2ヶ月前に全8戸の入居者が決定。新築コミュニティ賃貸「青豆ハウス」の話です。賃貸なのに下記写真のような上棟式を実施して、地域の皆様にお披露目をしました。

この写真の3倍ほどの人が集まった。浴衣姿も多く華やか(左) 施主・設計者・職人がお餅やお菓子をまく「餅まき」(中央)「鶏唐揚げ豆タルタル」はじめ、特製豆料理が並んだ(右)

写真:この写真の3倍ほどの人が集まった。浴衣姿も多く華やか(左) 施主・設計者・職人がお餅やお菓子をまく「餅まき」(中央)「鶏唐揚げ豆タルタル」はじめ、特製豆料理が並んだ(右)

イベントにより注目を集め、そこに集まった人がフェイスブックで拡散することによって広まり入居者が決まっていきました。また早期に入居者が決まることでカスタマイズやDIYが可能になります。入居前に自分の部屋の壁を好きな色に塗ります。みんなで楽しみながらDIYし見せ合うことで部屋だけでなく住民間にも愛着が醸成されていきます。結果愛される賃貸となり経営は安定する。私にはプロセス価値分も賃料に上乗せされていたように感じましたが、それでもその価値を認めた入居者がいたということです。
 月村オーナーは、「オーナー家族は入居者と同じ物件に住む、同じ生活を送ることが大事だ。そうしないと入居者の気持ちは分からない」とおっしゃっていました。確かに前述の青木オーナーも自らが「青豆ハウス」に住んでいます。
※「コミュニティ」については以前、こちらでもご紹介しましたので、よろしければご参考に!

さてリノベーションのパッケージ提案をする会社の社長と会食をした際に「一律の提案」では厳しくなってきたという話を聞きました。大切なのはオーナー様、あるいは管理会社様が入居者の気持ちをきちんと汲み取れる「仕組み」を持つこと。オークハウスというシェアハウスでは入居前に1時間の面接を行い、遅刻した人は入居させないそうです。これは入居者のコミュニティの質を一定以上に保つ「仕組み」だそうです。今後は設備や仕様などハード的な魅力づけに加えて、住んで楽しい、仲間がいるというソフト的要素、人的要素を創る、保つ「仕掛け」が重要になってくる、そう感じたフェアでした。

少し早いですが、今年もお世話になりました。
年明け新春号では2015年の賃貸市場の展望についてお話したいと思います。

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