池本編集長の賃貸ゼミな~る

第10回  賃貸DIYブームはやってくるのか?
~“いつかは持ち家”が変わる日~

今回は最近注目を集めている賃貸DIYをご紹介しながら、賃貸入居者の「住まい」に対する考え方の変化や新しい賃貸契約型についてお話していきたいと思います。

まずはじめに、賃貸DIYが最も進んでいるUR団地の1つ「箕面粟生団地」の実例を紹介しましょう。URでは「DIY団地」の制度があり、対象団地には工事期間にあたる3ヶ月間フリーレントという特典がついています。

Before(左)&After(右)台所・食事室から見た洋室、襖は取り払った。キッチンカウンターは食器棚の下段とカラーボックスでDIY

Before(左)&After(右)台所・食事室から見た洋室、襖は取り払った。キッチンカウンターは食器棚の下段とカラーボックスでDIY

Before(左)&After(右)キッチンの壁や吊り戸棚は煉瓦調のシートを貼っている。キッチンシンクのタイル貼り加工は労作!

Before(左)&After(右)キッチンの壁や吊り戸棚は煉瓦調のシートを貼っている。キッチンシンクのタイル貼り加工は労作!

紹介した写真は、全て入居されたご夫婦が自分たちだけで工事されたものです。「DIY賃貸のことは住宅情報誌を見て知りました。DIYモデルルームがあるというので見学に来たのですが、そこでひと目ぼれ。賃貸なのに壁の塗り替えがOKで、しかも退去時に元に戻さなくてもいいと聞いて、すごいと思ったんです。ふたりともDIYの経験はなかったのですが、そのまま仮契約してしまいました(笑)」と奥様。
 しかし、ふたりともDIY未経験、不安はなかったのでしょうか?
 「図工は苦手科目だったのですが、妻が惚れ込んでしまったので、もう頑張るしかない…(笑)」。DIY雑誌とモデルルームを参考に、できるところから始めていったというおふたり。ご主人はトイレの壁紙から、奥様は洋室の漆喰壁からと、分担しながらDIYを始めていったそうです。「それなりに苦労しましたが、その分愛着がわきますね」と満足そうに話すおふたり。この「愛着」によってきっとこの入居年数は長くなることでしょう。

こういったDIY事例が増える一方で、「いつかは持ち家」と考えている賃貸入居者も少なくはありません。ではなぜ持ち家にこだわるのでしょうか?今年4月に弊社が賃貸入居意向者へ聞いた「賃貸入居者動向調査」※では、持ち家への住み替え理由の1位が「好みの間取りや広さが手に入る」。3位に「設備を自由に決めたり、リフォームが自由にできる」が入りました(表1)。“賃貸には自由度がない”“持ち家にはそれがある”と賃貸入居者は考えています。

<表1>賃貸物件ではなく、持家への住み替えを考えている理由として、以下の内容はどの程度あてはまりますか

ところがこの数年で「賃貸カスタマイズ」という言葉が浸透してきたように、賃貸においても自分の好きな壁紙を選んだり、棚板をつけたりと不自由さが少し解消されてきました。

そんな中、今年3月20日に国土交通省から「個人住宅の賃貸活用ガイドブック」(「空き家」を活用するための知恵袋)が発表。この発表の背景は空き家問題でした。地方の一戸建てが相続される際、相続される側にとってはその古い家は必要ではないので放って置かれ空き家化が進んでしまう。その家を「賃貸にして貸しませんか?」と提言したのが本趣旨で、「不可動産」を「可動不動産」に変えようというものです。ところがひとつ問題が…「こんなボロい家は人に貸せるレベルじゃない」「貸せるレベルにするには数百万かかりそうだからやめておこう」これが貸す側のホンネでした。そう、賃貸の「借りた側が勝手にいじってはいけない」という原則が足かせになってしまっていたのです。そこで国土交通省が新しい賃貸借契約の形態となる「借主負担DIY型」を提示しました。

「借主不安DIY型」賃貸借契約の内容、利用者(借主)にとってのメリット

2011年に賃貸カスタマイズというトレンドキーワードを発表し、賃貸の内装の主導権が貸し手から借り手側に緩やかに移行していくことを支援していた私からすると、ついに国も動いてきたぞ!と感じるものでした。そこですぐさま、4月に賃貸住宅に住む方々にこの意向を調査※することにしたのです。

まず聞いたのは、現在居住している賃貸住宅で、「入居前や入居後にカスタマイズ(壁紙や照明の交換など)やリフォーム(トイレやキッチンの交換など)をしたことはあるか」というもの。「リフォームやカスタマイズをしたことがある」はわずか4.2%。まだまだ実施経験は少ないことが判明。ここは想定通りでした。ただ「したいと思ったがあきらめたことがある」という予備軍が約2割にものぼりました。ナゼ諦めたのでしょうか?その理由を尋ねてみると「許容範囲が分からない」(50.4%)、「契約上許されないから」(45.4%)が、3番目の「実施費用がもったいないから」(40.4%)を抑えてトップ2になったのです。なるほど、これは考えされられる結果でした。

そこで万を持して上記の借主負担DIY型契約について聞いてみたところ、認知度はわずかに8.7%。しかし、発表されて1ヶ月でこの数字は十分高いと言えるでしょう。そして内容を説明したうえで、利用意向を聞いたところ、利用意向はなんと46.9%(「とても利用してみたいと思う」6.8%、「やや利用してみたいと思う」40.1%)にのぼり、半数近いニーズがあることが分かりました(表2)。

<表2>あなたは、「借主負担DIY型」賃貸借契約を利用してみたいと思いますか

この結果速報を見た時、私のテンションは上がりました!ただこれが本当に浸透するのか、今の賃貸の業界慣習ではうまくいかないのではないか?とも感じ、浸透するための条件も聞いてみました。(表3)

<表3>あなたが「借主負担DIY型」賃貸借契約を利用するとしたら、以下のようなサービスは必要だと思いますか

1位の「オーナーが費用を一部負担してくれる」は愛嬌として、事前に必要な修繕箇所とお金が明確になっていることや貸主と借主の双方合意を円滑に行い、トラブルを回避できる仕組みが要望としてあげられました。そのあたりを整備すれば、ユーザーニーズはあるということです。

このDIY、日曜大工をする習慣のない日本人にはなじまないという声も多くききます。一方で取材をしていると「ローコスト」×「賢く」×「自分らしさ」が間違いなく今のどまんなかの生活者のニーズだなと感じます。このローコストで自分らしくを追求していくと、施工は自分で行うというDIYに行き着きます。日本においては部屋づくりに関心の高い女性からDIYが浸透していくと思っています。それはノコギリやカンナを使うのではなく、壁紙の張り替えやペイント、あるいは電動ドライバーで棚を取り付ける程度の、手軽に部屋のインテリアを一新するようなものから広がっていくと考えます。日本では壁紙の99.9%は業者が買います。でもドイツでは半数は一般個人が買います。日本においても上記のような住まい手側に住まいの自主権を取り戻す動きをはじめています。今後もこの動きも追いかけ、支援していきたいと思います。

※データ出典:賃貸入居者動向調査(2014年4月) リクルート住まいカンパニー調べ

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